Katu math

数学など

2020JMO本選記

 もうJMO本選から6週間近く経っていると考えると早いですね。時期外れですが本選対策や当日の僕の思考状況などについて書いておきます。

 

対策 

 IMO型の問題の演習を続けてきていたので本選の問題形式に触れることはあまりなかったのですが、本選は通ったことも受けたこともなかったので1,2週間前くらいから本選のセットに似た感じのものを時間を計って解く演習をしました。 JMO本選の過去問は直近10年ぐらいは目を通していたので特に解きませんでしたが、手を付けてない場合は良い練習になると思います。

 取りあえずAPMO対策も兼ねてAPMOの過去問を4時間のセットで解くことにしました。制限時間・問題数・難易度共にJMOに近いのでかなり良いセットだと思います。ただ問題が難易度順に並んでいなかったり、問題の後半は年によってかなりの難易度の差があったりします。(最近の年のものはAPMOのホームページに問題ごとの平均点などが載っています)

 他に試してみたのは

・Canada NO...3時間で5問、難易度は全体的にJMOより少し易しい

・Balkan MO...4時間30分で4問、JMOの2~4番位が並んでいる感じ

辺りです。JMO本選には近い方だと思います。

  ちなみにここら辺の海外の試験問題はArt of Problem Solvingと呼ばれる海外の数学関連のサイトに載っています。(Community)

 

  あとは幾何が苦手だったのでJMO本選2-3番位の幾何の問題を色々なところから探して解きまくって構図を身につけました。

 

当日

 試験の日は集合時間20分前に会場に着くようにするのがルーティーンになっているのでそうしました。財団のホームページに載っている会場までの所要時間は短すぎると毎回思ってます。

 あと計算用紙と解答用紙がA4だと思って演習していたら本番はB4でした。やけに図を描くスペースが狭いと思っていたらそういうことでした。

 3完-αで通過、3完~+αで入賞、4完で金だと思って挑みました。

 

 試験問題

1 

 個人的には序盤にNが出るのは嫌なのですが、去年に続いて6連続1Nです。2度あることは3度あるとかいう次元を超えているので諦めるしかありません。

 

  \sqrt{2^{n+1}+m+4} が整数という条件を見て、去年の1Nで隣り合う平方数の差を不等式評価したことを思い出します。

 

 \sqrt{2^{n+1}} が平方数でnが十分大きい時にこれが2^{\frac{n+1}{2}}2^{\frac{n+1}{2}}+1 で挟み込めそう。前者の条件を見てみると、\frac{n^2+1}{2m} が整数よりnが奇数であることから \sqrt{2^{n+1}} は常に平方数で、さらに n \geq \sqrt{m} がいえるので m+4 は  2^{n+1} に対してあまり大きくなれず、方針は正しそうです。

 

  簡略化のために k=\frac{n+1}{2} と置いて両式に代入して整理すると

 2^k\leq2k^2-2k+4

となり、k がある程度大きいと矛盾がいえます。これは明らかって書きたいけど1番だと厳密に書かないと減点されそうなので数学的帰納法を使って k\leq7 で矛盾を示します。あとは k\geq6 を調べ上げるだけだけど、ここでミスりそうなので慎重に何回か確認します。調べると

 (m,k)=(1,2) , (61,6)

で、非自明な解も自明な解も入っていて正しそうです。答えるのは (m,n) の組なので kn に変換して終わりです。

 

<感想>

 いつもの1番という感じでした。ちなみにJMO本選の特に1,2番は採点が厳しいことが多いらしいので、今回の数学的帰納法のパートのように一見自明なところもしっかり数学的に示した方がいいと思います。

 

 

2

 ここ5年は偶数年に2Gが置かれていたので、今回も来ると冗談半分で予想してたら本当に来ました。

 

 まず図をきれいに描きます。しばらく図を眺めていると点 Q が完全四辺形 BPCA のミケル点である(構図です)ことが分かります。どこまで詳しく記述すればいいか分からなかったので完全四辺形にミケル点が存在する証明をミケルの定理を使って書きました。これが分かると共円がたくさん出てくるので角度計算が進みます。

 ただこれだけでは結果に辿りつけなさそうなので他に相似や共円などがないかしばらく探してみると、BD=CE=BC が使えそうじゃないかとなり、そこから角度計算と合わせて三角形 QCEQDB の合同がいえます。すると残りの辺の長さも等しいことがいえ、PQBC の交点を H とすると地道な角度計算で BHQ=CHQ=90 が分かるので示されました。

 

<感想>

 2番級にしてはやや簡単だったと思います。Gが苦手なので救われました。

 ちなみに、Q がミケル点であることを使わなくても、Q が三角形 ABC の内心で三角形 PBC の垂心であることが分かれば解けるようです。いずれにしても図は大きく綺麗に描いて上記の性質を見つけやすい状態にするといいと思います。

 あとここまで1時間弱で解けたのでこれは川井狙えるかもとか思っていました。(完全な戯言であることが後に分かります)

 

 

3 

 N→N の関数方程式は得意意識があったのでウキウキしながら解き始めました。ただ少し考えると整数論的な考察はあまり意味が無くてどちらかというと整数の離散性が鍵っぽく感じました。

 

 解を探してみます。f(n)=n は解っぽいけど他にもあるかも。見た目的にfは線形っぽいので f(n)=an+b を代入してみると、 f(n)=n+b  (b\geq0)

で成立することがいえました。( これは大嘘で本当は b\geq1 のとき矛盾します) 

 

 まず、与式の左辺の (m-f(n))^2 という項がいかにも m=f(n) をしてほしそうな見た目をしているので代入すると

 2f(n)^2 \geq   f(f(n))^2+n^2

を得ます。式を見た感じ f(n)\leq f(f(n))\leq ... が示せそう。まず  f(n) < n のときはそれが成立します。それどころか  f(f(n)) < f(n) とより強い評価ができて、よって無限に続く単調減少数列がとれますが f:N→N より下界が存在するはずなので矛盾します。だから

 f(n)\geq n

ですね。幸先の良いスタートを切れた感じがします。解予想はf(n)=n+b (間違っている)だから、f(n)\geq n より g(n)=f(n)-n とおくと g:N→N+{0} でこれが定数関数であることを示すことに帰着されます。

 

  しかしここから沼にはまります。g(n)=f(n)-n を与式に代入して整理してもかなり複雑な式しか出てきません。この間に4番も考えますが有効な議論ができず。大幅に時間をロスします。しばらく考えて、すでに導いた式にこれを代入してかろうじて

 g(f(n))\leq g(n)

がいえました。f:N→Nと合わせると、f(n)-n,f(f(n))-f(n),... からなる数列の隣り合う二項の差はやがて一定になることがいえます。ただ、n の値によってこの一定になる差の値は異なるのでこれだけではあまり大きな進捗にならなさそうです。また、しばらく色々と代入したりしてfに固定点が存在するなら全部固定点であることが分かりました。

 

 ここからも時間を使って適当に代入します。m=n+1 を代入したときにnが十分大きいと

 g(n+1)> g(n)\Rightarrow g(n)^2\geq 6g(n)+2n+2

がいえます。つまり g(n) を定数とみたときに n が十分大きいと後者の不等式に矛盾するので、何らかの方法で g(n) が小さく抑えられれば g(n+1)=g(n) がいえます。求めたい条件はこれなので進捗したっぽい。さらに m=n+k ( k は正の整数の定数)としても同じことがいえます。

 

 g(n) を小さく抑えたいですが、f:N→N より g(n) が最小値 r をとる n が存在し、そのような n の最小値をとると r \geq1 のときは r に対して十分に大きい整数 m (nf を有限個かけて得られる数) において

 g(m+k)=g(m)(1\leq k \leq r)

がいえます。これで十分大きい整数に対して g の値が一定であることがいえました。

 

 あとは g の値が小さい方でも一定であることを示したいのですが、ここからさらに詰まり、成果が得られないまま試験終了。

 

 本当は f(n)=n+b(b\geq1) は解ではなく、これは代入で容易に確かめられます。計算ミスをしていたわけです。ちなみにこの解を排除すると十分大きい m に対して g(m)=0 がいえ、g(m)\geq1 だと同じく代入で矛盾が言えます) そして先で示した f の固定点関連の性質より f(n)=n が唯一の解であることが分かります。

 

 <感想>

 嘘を嘘で証明しました。実は予選の f:N→N の問題でも嘘証明をしていて、嘘に気付いてからあの時から何も変わっていないと落胆しました。

  ちなみに模範解答は m=f(n) を代入した式を整理して

 f(f(n))^2-f(n)^2\leq f(n)^2-n^2

を導いており、そうするとはるかに簡単に g(n),g(f(n)),...  がいずれ0で一定になることがいえます。そこまで強い代入だと思ってなかったので放置していましたが天才かと思いました。一度嵌るとなかなか抜けられなくて、そういう意味では難しい問題だと思います。

 

 

4

 途中から3番と同時並行で考えました。

 (n-1)/6 本だから取りあえず n=7,13,19 あたりで実験してみると確かに条件を満たしそうです。小さい方から6個ずつで同じ規則で構成できるのかなと思って実験を続けますが、大きい n にも通用する構成法が見つかりません。(こういう時は大体値を上下から評価したり帰納的でない構成であることが多いのですが本番では気づけませんでした) 仕方なく解ける望みのある3に時間を割くことにして4を捨てました。

 

<感想>

 自分が沼にはまっている時にどれだけ早く気づいて別方針を立てられるかって大事だと思います。帰納的でない構成でできるそうです。まあ難しいです。言われれば簡単に納得できるのですが。

 

 

5

 問題だけ見て解きませんでした。まあ難しいです。最近のSLP(2015-N7)に似たような問題があったなと思いました。Nだしもしかしたら4より議論が進んだかもしれませんが、5番で正の得点を取った人は居なかったので採点も厳しかったようです。

 

 

 試験開始時は2Gが早く解ければ勝ち、という感じでしたが、自分が解けると思っていた分野で大嵌りしてしまい満足のいかない感じで終わりました。5も面白そうだったので手は付けてみたかったのですが...

 3完出来なかったので試験終了直後はものすごく不安でした。関東会場では3完主張は多くなかったのですが、関西で相当いるという話を聞いて、Twitterで3完報告をしている人数を数えたりもしました。

 

結果

 8-8-4-0-0の20点で優秀賞でした。銅ボーダーが24で金が31だったそうです。順位表を見ると関西勢が17/21で驚きました。去年も2/3くらいが関西だったし、3年後ぐらいには春合宿も関西でやるようになるんじゃないでしょうか。

 結果が出るのは例年2/20頃だったのですが、今年は少し早く2/19にホームページで出ていて、学校の昼休みの時に自分の通過を確認しました。3番のミスにさえ気付けばメダルが狙えたので少し惜しい気もしましたが抜けられた安堵感と春合宿に行ける嬉しさの方が勝っていました。ただ不安で一切のタスクに精が入らなかったあの本選からの1週間は2度と味わいたくないです。

 

 

余談

 東京会場は分からなかったですがお菓子類持ち込み可能の会場もあったみたいですね。実際4時間も試験を受けていると最後の方に腹が減ってきたのでグミなどの軽食は用意しておいた方がいいかもしれません。